墨子 巻十三 公輸
《公輸》
公輸盤為楚造雲梯之械、成、将以攻宋。子墨子聞之、起於齊、行十日十夜而至於郢、見公輸盤。公輸盤曰、夫子何命焉為。子墨子曰、北方有侮臣、願籍子殺之。公輸盤不説。子墨子曰、請献十金。公輸盤曰、吾義固不殺人。子墨子起、再拝曰、請説之。吾従北方、聞子為梯、将以攻宋。宋何罪之有。荊國有餘於地、而不足於民、殺所不足、而争所有餘、不可謂智。宋無罪而攻之、不可謂仁。知而不争、不可謂忠。争而不得、不可謂強。義不殺少而殺衆、不可謂知類。公輸盤服。子墨子曰、然、乎不已乎。公輸盤曰、不可。吾既已言之王矣。子墨子曰、胡不見我於王。公輸盤曰、諾。
子墨子見王、曰、今有人於此、舍其文軒、隣有敝轝、而欲竊之、舍其錦繡、隣有短褐、而欲竊之、舍其粱肉、隣有糠糟、而欲竊之。此為何若人。王曰、必為竊疾矣。子墨子曰、荊之地、方五千里、宋之地、方五百里、此猶文軒之與敝轝也、荊有雲夢、犀兕麋鹿満之、江漢之魚鱉黿鼉為天下富、宋所為無雉兔狐貍者也、此猶粱肉之與糠糟也、荊有長松、文梓、楩楠、豫章、宋無長木、此猶錦繡之與短褐也。臣以三事之攻宋也、為與此同類、臣見大王之必傷義而不得。王曰、善哉。雖然、公輸盤為我為雲梯、必取宋。
於是見公輸盤、子墨子解帯為城、以牒為械、公輸盤九設攻城之機變、子墨子九距之、公輸盤之攻械盡、子墨子之守圉有餘。公輸盤詘、而曰、吾知所以距子矣、吾不言。子墨子亦曰、吾知子之所以距我、吾不言。楚王問其故、子墨子曰、公輸子之意、不過欲殺臣。殺臣、宋莫能守、可攻也。然臣之弟子禽滑釐等三百人、已持臣守圉之器、在宋城上而待楚寇矣。雖殺臣、不能絕也。楚王曰、善哉。吾請無攻宋矣。
子墨子歸、過宋、天雨、庇其閭中、守閭者不内也。故曰、治於神者、衆人不知其功、争於明者、衆人知之。
字典を使用するときに注意すべき文字
籍、借也。 かりる、の意あり
義、宜なり。 よろし、転じて、そなえ、の意あり。
《公輸》
公輸盤は楚の為に雲梯の械を造り、成る、将に以って宋を攻めむ。子墨子は之を聞き、齊より起ちて、行くこと十日十夜にして而して郢に至る、公輸盤に見えむ。公輸盤の曰く、夫子は何をか命ずることを為すや。子墨子の曰く、北方に臣を侮る有り、願はくは子に籍りて之を殺さむ。公輸盤は説ばず。子墨子の曰く、請う十金を献ず。公輸盤の曰く、吾が義として固く人を殺さず。子墨子は起ちて、再び拝して曰く、請う之を説かむ。吾は北方従り、子が梯を為るを聞く、将に以って宋を攻めむ。宋に何の罪は有る。荊國は地に餘り有りて、而に民は足らず、足らざる所を殺し、而して餘り有る所を争う、智と謂う可からず。宋に罪は無しにして而に之を攻む、仁と謂う可からず。知をして而に争わず、忠と謂う可からず。争ひて而して得ず、強と謂う可からず。義は少を殺さずして而に衆を殺す、類を知ると謂う可きか。公輸盤は服す。子墨子の曰く、然らば、已にせざるや。公輸盤の曰く、可からず。吾は既として已に之を王に言へり。子墨子の曰く、胡ぞ我を王に見えざむや。公輸盤の曰く、諾。
子墨子は王に見えて、曰く、今、北に人有り、其の文軒を舍て、隣に敝轝が有れば、而して之を竊むを欲す、其の錦繡を舍て、隣に短褐を有れば、而して之を竊むを欲す、其の粱肉を舍て、隣に糠糟を有れば、而して之を竊むを欲す。此れ何の若き人と為すや。王の曰く、必ず竊疾と為さむ。子墨子の曰く、荊の地は、方五千里なり、宋の地は、方五百里なり、此は猶文軒の敝轝なり、荊に雲夢有り、犀兕、麋鹿は之に満ち、江漢の魚鱉、黿鼉は天下の富と為る、宋の為す所は雉兔、狐貍は無きなり、此は猶粱肉の糠糟なり、荊に長松、文梓、楩楠、豫章有り、宋に長木無し、此は猶錦繡の短褐なり。臣は以って三たび宋を攻めるを事す、此と類を同じくすと為す、臣は大王は必ず義に傷れ而して得ずを見る。王の曰く、善きかな。然りと雖ども、公輸盤は我の為に雲梯を為す、必ず宋を取る。
是に於いて公輸盤を見、子墨子は帯を解きて城と為し、牒を以って械と為す、公輸盤の九たび攻城の機の變を設けれども、子墨子は九たび之を距ぐ、公輸盤の攻械は盡き、子墨子の守圉は餘り有り。公輸盤は詘して、而して曰く、吾は子を距ぐを以って知る所も、吾は言はず。子墨子は亦た曰く、吾は子の我を距ぐを以って知る所も、吾は言はず。楚王が其の故を問うに、子墨子の曰く、公輸子の意は、臣を殺さむと欲すに過ぎず。臣を殺せば、宋は能く守るは莫し、攻む可し。然るに臣の弟子禽滑釐等は三百人、已に臣の守圉の器を持つ、宋城の上に在りて而して楚の寇すを待つ。臣を殺すと雖ども、絶つこと能はずなり。楚王の曰く、善きかな。吾の請、宋を攻めること無からむ。
子墨子は歸りて、宋を過ぎ、天は雨りて、其の閭中に庇せむ、閭を守る者は内せず。故に曰く、神に治める者は、衆人は其の功を知らず、明に争う者は、衆人は之を知る。
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