墨子 巻一 修身
≪修身≫
君子戦雖有陳、而勇為本焉。喪雖有禮、而哀為本焉。士雖有学、而行為本焉。是故置本不安者、無務豊末。近者不親、無務来遠。親戚不附、無務外交。事無終始、無務多業。挙物而闇、無務博聞。
是故先王之治天下也、必察邇来遠、君子察邇而邇脩者也。見不脩行、見毀、而反之身者也、此以怨省而行脩矣。譖慝之言、無入之耳、批扞之聲、無出之口、殺傷人之孩、無存之心、雖有詆訐之民、無所依矣。
故君子力事日彊、願欲日逾、設壮日盛。君子之道也、貧則見廉、富則見義、生則見愛、死則見哀。四行者不可虛假、反之身者也。蔵於心者、無以竭愛。動於身者、無以竭恭。出於口者、無以竭馴。暢之四支、接之肌膚、華髮隳顛、而猶弗舍者、其唯聖人乎。
志不彊者智不達、言不信者行不果。據財不能以分人者、不足與友。守道不篤、偏物不博、辯是非不察者、不足與游。本不固者末必幾、雄而不脩者、其後必惰、原濁者流不清、行不信者名必秏。名不徒生而誉不自長、功成名遂、名誉不可虛假、反之身者也。務言而緩行、雖辯必不聴。多力而伐功、雖労必不圖。慧者心辯而不繁説、多力而不伐功、此以名誉揚天下。言無務為多而務為智、無務為文而務為察。
故彼智無察、在身而情、反其路者也。善無主於心者不留、行莫辯於身者不立。名不可簡而成也、誉不可巧而立也、君子以身戴行者也。思利尋焉、忘名忽焉、可以為士於天下者、未嘗有也。
字典を使用するときに注意すべき文字
舍、息也、於殿中休息也。 やすむ、の意あり、派生してナニナニを止める。
幾、危也。 あやうい、意あり。
伐、功也。伐者爲主。 功を得る。主と為る、の意あり。
文、猶美也、善也 よし、ぜん、の意あり。
多、取數多者，仁也。 じん、の意あり。
戴、値也。 あたいする、であう、の意あり。
≪修身≫
君子は戦に陳有りと雖も、而に勇を本と為すなり。喪に禮有りと雖も、而に哀を本と為すなり。士は学有りと雖も、而に行を本と為すなり。是の故に本を置くこと安からざるときは、末を豊にするを務めること無し。近き者の親まざるときは、遠きを来たすを務めること無し。親戚の附かざるときは、外交を務めること無し。事の終始無きときは、多業を務めること無き。物を挙げて而に闇きときは、博聞を務むること無き。
是の故に先王の天下を治むるや、必ず邇きを察して遠きを来たし、君子の邇きを察して而して邇くを脩むる者なり。行を脩めざるを見、毀るを見れば、而して之を身に反するものなり、此を以って怨を省き而して行を脩める。譖慝の言、之を耳に入るること無し、批扞の聲、之を口に出だすこと無し、人を殺傷する孩、之を心に存すること無し、詆訐の民は有りと雖も、依る所は無し。
故に君子は力事の日に彊め、願欲の日に逾み、設壮の日に盛んなり。君子の道や、貧しきときは則ち廉を見、富めるときは則ち義を見、生けるときは則ち愛を見、死せるときは則ち哀を見る。四行は虚假す可からず、之は身に反するものなり。心に蔵むる者、以って愛を竭すこと無し。身に動く者、以って恭を竭すこと無し。口に出だす者、以って馴を竭すこと無し。之を四支に暢べ、之を肌膚に接し、華髮隳顛にて、而して猶舍せざる者は、其れ唯聖人か。
志の彊からざる者の智は達せず、言の信ならざる者の行は果さず。財に據りて以って人に分つこと能はざる者、與に友たるに足らず。道を守ること篤からず、物を偏ずること博からず、是非を辯ずること察ならざる者、與に游ぶに足らず。本の固からざる者は末だ必ず幾し、雄にして而して脩まらざる者は、其の後必ず惰る、原の濁れるものの流は清からず、行の信ならざる者の名は必ず秏る。名は徒らに生ぜず而して誉は自ら長せず、功は成り名は遂ぐ、名誉は虚假す可からず、之の身に反する者なり。言を務めて而に行を緩くすれば、辯ずと雖も必ず聴かれず。多力にして而して功に伐れば、労すと雖も必ず圖られず。慧者は心に辯じて而して繁く説かず、多力にして而して功に伐らず、此を以って名誉は天下に揚がる。言は多を為すことを務めむも而に智るを為すを務むこと無く、文を為すことを務めむも而に察するを為すを務むこと無し。
故に彼の智を察するは無く、身に在って而して情り、其の路に反するものなり。善、心に主無き者は留まらず、行、身に辯莫き者は立たず。名は簡にして而して成す可からず、誉は巧にして而して立つ可からず、君子は身を以って行に戴ふ者なり。利を思ふこと尋焉とし、名を忘るること忽焉として、以って天下に士為る可き者は、未だ嘗て有らざるなり。
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